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リレーエッセイ 
すみれメンバーが毎月交替で執筆します

生きるということ
平成20年7月
石井 美代子
       

いつだっただろうか、映画「ハチ公物語」を観たのは。
観ながら思った。ああ、犬って思い出があればそれだけで生きていけるのだ、と。

桜吹雪の中の先生との散歩、
五右衛門風呂に一緒に入り、奥さんに叱られる先生とハチ
雷の鳴る嵐の中、先生と布団にくるまるハチ

先生とハチの至福の時。
広がる映像の中、先生もハチも生き生きとしていた。本当に幸せそうだった。
ハチは一人ぼっちになって、繰り返し、繰り返し、先生との夢を見ていた。

私の老犬も、若い頃、よく夢を見た。
眠っていても、尻尾を振りふり足を動かし、いつもは声を出さないのに、ワンワンとかすれ声を出したりした。

留守番させることが多いせいか、年を取るごとに静かな犬になっていった。
ふと目をやると、いつも、視線の先にじっと見つめる目があった。
年老い、突然足が不自由になった今、私の犬はどんな夢を見ているだろうか。
先生とハチのような濃厚な時間を持っただろうか。

日曜日の昼下がり、命を生き抜くことの大変さを教えながら、私の犬は静かな寝息を立てている。






              
   
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